お布施を先にお坊様に渡してしまいました。

私の祖母が若くして亡くなってから、
10年来、家族ぐるみで懇意にしていた年配のお坊様から、
そのお坊様の息子さんに代替わりして数年たった頃だったと思います。

祖父は若くして亡くなった祖母のことが大好きだったので、
毎年、近くに住む親戚を集めてお坊様に念仏を唱えてもらっていました。
年配のお坊様は、かなりの人徳があったので私の家族は彼のことをとても信頼していました。

年配のお坊様が亡くなった後、息子のお坊様が初めて1人で訪問されたとのことでした。
その日の予定は例年どおり、お坊様に来てもらって、
念仏を唱えてもらってお布施をお供えする運びとなっていました。

お布施を用意して待っていますと、
かなり急いだ様子で玄関に駆け込んで来られたお坊様が、
「こんにちは、すみません」と謝りながら、おばあちゃんの仏壇の部屋へ入って行こうとしたので、
時計を見ると15分くらい遅刻をされていたみたいでした。
「足の悪い叔母をおぶってきますので待ってください」と断って、
寒い仏壇間の隣の暖かい部屋から叔母を15歩くらい、おぶって行くと、
もうお坊さんがいないので、驚いて母に聞いたら、
「お布施を持って玄関から出て行ってしまわれた、すぐ戻るって言ってたわ」
と、真に受けた私たちは数分のことだろうと待っていたが、一向にいらっしゃらず、
不思議に思いつつ、外でしばらく近所を見渡しても、お坊様らしきかたが見当たらないのです。

しょうがないので電話をかけると、若いお坊様は電話に出て、
「すみません」と謝るので、どういうことか説明を求めました。
すると、「もうお布施はいただいたので、念仏は唱えたはず」と、
回答されてしまって、呆気にとられました。
こんなこと、これまで1度だってなかったのです。
でもまあ、お坊様だって人間です、忘れることもあるかと思って、重大なことだとは思いませんでした。

次の訪問になって、例年どおり、お坊様を迎え入れると、
挨拶もそこそこに、念仏を唱えてもらうことになりました。
仏壇にむかって座布団の上に正座すると
唱え始めて30秒で念仏を終わり、
「お布施のほう・・・」とおっしゃられたので、
いつもより念仏が明らかに短いなと、その場に居た全員が思いました。
「お父上も一緒に来てた時期はそんな対応しなかったじゃないか」と私の祖父はやんわり注意しました。
「私の個性ですので」と返されてしまい、
前回も今回も何となく家族全員もやもやした気持ちになってしまったので、
来年からは違うひとに頼もうかという話になりました。

その次の年の祖母の命日になる前に、若いお坊様から連絡があり、
「お寺を畳む」とのことだったので、理由を聞くと、
「この土地ならではの田舎の風習があわない」とのことでした。
世襲のお寺だったので、田舎の風習が合わないなんて、不思議なことをおっしゃられるし、
お寺の本堂は最近、建て直したので新築なのに変だなと思いました。

しばらくして祖父が亡くなったときに、
いつものお坊様を呼ぼうとして止められたので、理由を聞くと、
近くに住む親戚が言うには、近所の人も同じようなトラブルに遭遇していたらしいのです。
何もせず祝儀だけ持って帰るので、どうやらクレームが立てこんで収拾がつかなくなっていて、
お寺を廃業せざるを得なくなったということでした。

新しくお寺にいらした若いお坊様たちは、それはそれは丁寧なかたで、
念仏をちゃんと唱えてくれる感じの良いお坊様たちでした。

プロのお坊様として必要な配慮が、お父上が亡くなった瞬間、息子のお坊様から消えてしまっていましたし、
息子のお坊様は、お父上のお坊様とは違い、元々あまり長いこと続ける気がなかったんじゃないかなと思います。
お父上のお坊様が立派だからと言って息子のお坊様も立派だとは限らないですね。
当たり前なようで気づきませんでした。
よい勉強になりました。

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